アースデイとやま2016の環境市民フォーラムにて、『能登に学んだ「作る」暮らし』という題の発表をさせていただいた。

この環境市民フォーラムは、富山市で開催されたG7環境大臣会合に合わせて、市民による“もう一つの環境サミット”として開かれたもの。私は自然農の先輩であり、アースデイとやま実行委員でもある河内さんの推薦を受けて参加することとなった。先日のマイスターフォローアップ事業といい、来月のJCIイベントといい、どうも今年は人前で発表をする年のようだと、一人覚悟を決めている。

一体何を伝えられるのだろうかという不安を抱えたままの発表だったけど、話を聞いた何人もの方から、面白かった、珠洲に行きたいという感想をお聞かせいただけて、これで良かったと思っている。発表時間が10分しかなく、いいことしか言ってない。課題は、そのあとの意見交換に持ち込んだ。

能登に学んだ「作る」暮らし

 

  私は本日の会場富山県の隣石川県の、日本海に突き出した能登半島、その先端の珠洲市に住んでいます。6年ほど前に妻とこちらに移住し、地域にどっぷり浸かって生活をしています。

  三つの見出しにそってお話いたします。

  一つ目は、身近な資源を利用して、必要なものを作る、ということ

  これは薪ストーブです。左上のものは、地域の方が鉄工所の方と相談して作った給湯機能のあるストーブ。残りの写真は、珠洲市特産の珪藻土の煉瓦で作った我が家の調理器具です。こちらは珪藻土の工場の社長さんと親しくさせていただいて、ストーブの試作のために珪藻土煉瓦をご提供いただきました。このような、地元の工場と結びついて物作りをされる方が、市内のあちこちで見られます。

  近所で農作業小屋を潰すというので、私が解体を請け負って、近所の方を雇って解体して、そして我が家の建築資材になったという写真です。かといって私は大工の経験はありません。しかし、左の写真2枚の白っぽい服を着た方はそれぞれ、現役で大工の手伝いをしている方と、昔は大工で働いていたという方、赤い帽子の方は頼んでもいないのに毎日手伝いに来てくれた方です。ぱっと声を掛けただけで、こういう仕事を出来る方々が集まるというのは、人的資源に恵まれた地域だと感じます。また、日本の伝統建築は、解体して得た木材を、別の形に建て替えることができます。こうやって地域内で手に入った資材で、私の家の改修をしました。

  これは豆腐です。普通は豆腐を固めるのに、海水を煮詰めて残るニガリを使いますが、私の地域では海水そのものを使います。海水は集落のすぐ裏の海で採ります。私は泳ぐのが下手でたまに溺れたようになるので、たらふく飲んで知っていますが、ここいらの海水は美味しいんです。だから豆腐も美味しくできあがります。

  その美味しい海水で、塩を作ってみました。珠洲には全国で唯一揚げ浜式塩田があります。NHKのドラマにも取り上げられたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。私も塩田に何度か見学に行かせていただいて、小規模なら自宅でもできることを知りました。汲んできた海水をホーロー鍋に入れて、薪ストーブの上に置いていただけですが、美味しい塩になりました。

  調味料です。右が柿酢、左がイシルを作っているところです。今日本の農村のあちこちで柿が利用されずに、木の上で朽ちていくのを目にしますが、私は渋柿も甘柿も大好きで、自分の屋敷の柿と隣の家の柿まで食べています。好きで好きで食べますが、それでも余るので、柿酢を作ってみました。もいだ柿を瓶に入れておくだけで、酢が手に入ります。イシルは魚醤とも呼ばれる調味料です。時季外れの鯖が近所の網へ大量に入ったときに、我が家にも回ってきたので、内臓を塩に漬け込みました。イシルという調味料、昔からこうやって鯖や烏賊などが大量に手に入ったときに作られてきたそうです。

  アゴダシを作っているところです。能登ではトビウオのことをアゴと呼びます。夏の初め頃に能登沖を群れをなして飛び行くアゴを目にすることができます。近海で大量のアゴが捕れるために発達したのだと思いますが、このアゴで出汁をとるための焼き干しをあちこちの家庭で作ります。祭りの茶碗蒸しやお正月の雑煮には、このアゴダシが欠かせません。

  近所のお母さんに米飴の作り方を習っているところです。私は甘味調味料は自分で作れないと思っていたのですが、米飴だったら米と麦さえ栽培すれば作ることができます。このお母さんも、米飴を作りたいから自分で大麦を育てています。昔は集落の沢山の家庭で作っていたそうですが、今ではこのお母さんだけじゃないかというお話です。

  このような身近な資源を利用した物作りを、米飴の家のお父さんがこう言いました。「ここは昔陸の孤島だったから、なんでも自給せなならんかった。けど、なんでも作れるって楽しいぞ」。

  二つ目の見出しは、豊かな自然利用〜集落と山や海との関係について〜

  これは、シタダメと総称される小さな貝類です。それぞれ汁のダシにしたり、焼いて食べたりします。集落の裏の海で採ってきます。

  タコスカシという蛸を捕る漁法です。秋の凪の良い朝には、待ち合わせをしたかのように男たちが磯に集まります。

  岩海苔採りと、採った海苔を干しているところです。

  我が家の庭で採れた山菜です。

  これらと、他にもぱっと思いつく自然からの恵みがどこで取れるか地図にしました。真ん中のピンク色の印が我が家ですが、そこから裏の海までは300mほどです。集落のほんの近くで様々な食材や薪などが手に入ります。

  区長会会長さんがことあるごとに、こう言います。「前に手を伸ばせば海があって、後ろに手を回せば山がある。ここいらは生きるのにお金のいらない、いいところです」。

  三つめ最後の見出しは、お裾分けという文化についてです。

  これらは、我が家に回ってきたお裾分けの一部です。珠洲へ移り住んだばかりの頃、あまりに沢山いただくので、その度に何とかお返しをしようと苦労していました。しかし、あるとき近所のお母さんにこういうことを言われました。

  お母さん「私にお返しをしないで。今度あげられなくなるから」。 私「え?!」 おかしなことを言うなぁと思うわけです。そしたらまた、こんなことを言っていただきました。

  お母さん「人から頂いた分の気持ちは、別の機会に、別の人へ渡してくれればいいから」。

  お母さん「あなたも、沢山手に入ったものがあったら、配って回るのよ」。

  私(心の声)「これは、未来へのバトンを受け取ったのか!」

  沢山バトンを受け取りました。

豊かな天然資源を背景に、天からの頂き物が人の手を介して回ってきているような気がします。

  最後にまとめます。

能登に学んだ「作る」暮らしとは

  • 必要なものは、身近な資源を利用して、楽しんで作れ
  • 集落の目の前にある、山や海と豊かな関係を結べ
  • お裾分けのバトンを未来に渡せ

  発表終わり

小さな自治

さて、フォーラムは基調講演のあと分科会へ進み各登壇者の発表、その後登壇者と来場者が交じりワールドカフェ形式で意見交換を重ねていった。

意見交換の中で私は、小さな社会(村、集落、共同体)での健全な自治を続けていくにはどうしたらいいのかということを提起し続けてみた。その中で得られた非常に重要だと感じたこと。

  • 面倒臭いかもしれない役割を、各人が実践で学んでいくことで、村の自治力が蓄えられていく。
  • 一人一人が自ら選択する。そのためには多様な人間を受け入れる寛容な社会が必要。

富山から世界へ 環境市民宣言

当日の発表と意見交換すべてを踏まえて、「富山から世界へ 環境市民宣言」というものが出された。当日の夕方までにこれをまとめる事務局に脱帽。その内容については、同日21時に副実行委員長の横畑泰史さんが、日本政府(環境省)に直接手渡した。

産業革命以後、さらに第二次世界大戦以後、急速な開発と経済発展により、世界はグローバル化し、人々の生活も大きく変化してきました。この急激な近代化によって引き起こされた社会の歪みは、公害となって人々の暮らしや生命を圧迫しています。ここ富山県でも、カドミウム汚染によるイタイイタイ病が発生し、被害住民の深い苦しみが癒えることはありません。私たち現代人はまた高い利便性と引き換えに、大量消費による廃棄物の問題や自然破壊によって失われる生物多様性、進む地球温暖化など、地球の未来を脅かす大きな諸問題を生み出してしまいました。先進 7 カ国をはじめとする国際社会はその解決のために、COP21 パリ協定 を実行に移す、具体的な方策を取らなければなりません。そして同時に市民もまた、それぞれのライフスタイルを見直し、持続可能で真に幸福な市民社会へとシフトしていかなければなり せん。3.11 東日本大震災を経験した日本だからこそ、私たちは人間らしいしなやかな都市づくり・分かち合いの社会へと、大きく舵を切ることができるのです。

「アースデイとやま 2016 環境市民フォーラム」に集った私たちは、2030 年までの国際目標「SDGs(持続可能な開発目標)」を踏まえ、未来への責任を果たすために、次のような行動目標を掲げ、自己と社会の変革を進めることを宣言します。

・私たちは、物質文明から環境と生命を大切にする文明へとシフトします。

・私たちは、自然に謙虚な姿勢で向き合い、生物多様性やその恵みと共にある暮らしを、守り伝承していきます。

・私たちは、拡大型のグローバル経済への依存から、地域循環型の持続可能な経済へシフトします。

・私たちは、主権者として政治参加によって、自分たちが望む未来を築きあげます。

・私たちは、行政や専門家のみに依存せず、自ら論理的な思考や調査スキルを身につけ、対等な立場から議論しながら、よりよい政策づくりに積極的に関与します。

・私たちは、それぞれが自分の役割を担い、顔の見える共同体を再生します。

・私たちは、地消地産を進め、食糧自給率の高い地域社会を取り戻します。

・私たちは、原発に頼らず、化石燃料への依存を減らし、再生可能エネルギー100%をめざします。

・私たちは、情報を共有し、市民がエンパワーメントされる「市民プラットフォーム」をつくります。

・私たちは、この宣言のもとに行われた各自の取組みを定期的に持ち寄り、継続的に改善していきます。

2016 年 5 月 14 日

アースデイとやま 2016「環境市民フォーラム」参加者一同

 

有意義な一日だった。ありがとうございました。

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