煉瓦積みの蓄熱式薪ストーブ、ロシアでいうペチカを、自分で設計して、実際に作るまでのお話。

ペチカとは

ペチカ(печка)とはロシア語で、煉瓦を積んで作る蓄熱式の薪ストーブ。蓄熱式の薪ストーブには、フィンランドのソープストーン・ストーブ、スエーデンのCronstedt Wrede kakelugn、ロシアのペチカ、アメリカのメイスンリー・ヒーターなどがある。

蓄熱式ってどういうことか説明するために、日本で薪ストーブといえば想像するだろう金属で出来たストーブで考えてみよう。金属の薪ストーブは、薪が燃えてる間は暖かいけど、火が消えると冷える。高級な金属ストーブには、2次燃焼の仕組みがあって、太い薪をゆっくり燃やすことができるので、ある程度長い時間暖かい。でもやっぱり、火が完全に消えると冷える。これは、金属板の蓄熱量が、蓄熱式ストーブと比べると、とても少ないからだ。

ペチカなどの蓄熱式ストーブは、薪を短時間に高温で燃やして、分厚い石や煉瓦に蓄熱させ、火が消えた後に、じわじわと放熱する方式。1日に1回か2回、例えば朝起きたら1回と夕方1回火を焚けば、あとは1日中放っといても部屋を一定の温度で保つことができる。そのかわり長期留守の後など、完全に冷えてる状態からだと、煉瓦がちゃんと暖まるまで半日から数日かかる。

私がペチカに惹かれたのは、古くから手作りされてきた歴史があって、自分で作りメンテナンスする方法がとても詳しく公開されている点。良い設計のペチカでは、薪を燃やして得られた熱を煙突から屋外へ排出することなく、90%近く暖房として用いる事が出来ること。

コンピューターの世界で働いていた人間としては、オープンソースという雰囲気はグッとくる。さらに、すごい種類の設計があって、どんな家にはどんな設計が向いているとか、とても詳しい情報が公開されている。ロシア語分かんないけど、コンピューターが翻訳してくれる時代で、ほんと助かった。

もう少し具体的に図で説明しよう。黄色で示された耐火煉瓦の燃焼室で薪を燃やして、発生した熱い気体が、赤色で示された普通煉瓦の煙道を通り熱を蓄える。これがペチカ。

ПТОУ-2500

この図は、ロシアでは有名な設計図。ペチカの設計資料は、日本語では、ほぼ存在しないが、ロシアで出版されてインターネットで閲覧できるものが幾つかある。翻訳ソフトをあれこれ試して、なんとかロシア語を読み解くうちに、このПТОУ-2500という設計が我が家にちょうど良いと思うようになった。大きさもいいし、煉瓦の積み方が単純なので、この設計図に従って作ろうと思っていた。

そんな折、梅茶翁から、光風林の筒井さんを講師にしたペチカWSへのお誘いがあり、どっぷり参加させてもらった。ペチカ作りを体験したり、意見交換できる機会なんていままでなかったから、とてもありがたかった。沢山勉強させてもらって、ワークショップに刺激を受けて、我が家のペチカ設計を見直そうという気になった。

一緒にワークショップに行った嫁も、ペチカの実物や写真・資料を沢山見て、自分の欲しい機能を具体的に捉えることができたので、嫁の欲しい機能を踏まえて設計をしなおすことにした。

嫁のペチカ機能要件

  1. 燃焼室内をオーブンとして使える
  2. ペチカをパンのホイロとして使える
  3. パン釜の排熱を蓄熱利用する
  4. 蓄熱ベンチに寝そべりたい

この要件をもとに設計図を書くことにした。まずは要件を定義する。

1.燃焼室内をオーブンとして使える

燃える薪が炎を出し終わり、熾炭となった時点で、燃焼室の中に鍋や鉄板を入れてオーブンとして使うというのは、普通の薪ストーブでもやっている人がいる。パンを焼く石釜と同じ原理。

これをやるには、ПТОУ-2500の焚き口では狭い。もっと広い焚き口が必要。

2.ペチカをパンのホイロとして使える

ホイロというのは、パンを醗酵させる際の保温機のこと。ペチカをはじめとしたメイソンリーストーブ(蓄熱炉)は一定温度でゆっくりと放熱できるので、保温機に向いている。しかし、ПТОУ-2500のような縦型ではパン生地を置く場所が限られているので、ペチカの上や壁面に平たい場所を増やす必要がある。

3.パン釜の排熱を蓄熱利用する

パンを焼くときの熱量は大きい。冬の間は、これを捨てるのはもったいないというのは分かっていた。メンテナンスや修理を考えると、できるだけ単純な作りがいいので、ためらっていたけど、いい機会なので、パン釜とペチカを接続する設計に挑戦。

4.蓄熱ベンチで足を伸ばして、もたれ掛かって編み物をしたい

蓄熱ベンチは却下。ベンチ式ロケットストーブで、大き過ぎるストーブに室内空間を占拠されるのに懲りた。

ペチカに背をもたせかけて、暖まった床に足を伸ばすのは気持ちがいいという説明で、蓄熱ベンチはいらないということに納得してもらった。

暖めたい部屋に対する、必要な暖房能力の計算

部屋を暖めるには、どのくらいの熱量のペチカが必要なのかを、計算する。これはペチカに限らず、ストーブ全般に使える計算の仕方。

基本的な考え方は、部屋から逃げる熱量と同じだけの熱量を補充してあげれば、部屋を暖かくしておけるということ。

暖房(冷房)器具の何畳用の根拠:Q値はどう使う? – 「結露しない家」ゼロエネ健康住宅

部屋から逃げる熱量 W/hr =

Q値(熱損失係数) × 床面積(m2 吹抜等も加算する) × 内外温度差(℃) = 部屋から逃げる熱量 W/hr

6畳の天井が吹き抜けになっているとしたら、床面積に6畳分加える。

熱損失係数(Q値)| コーナー札幌

次世代省エネルギー基準(平成11基準)

地域区分 1 2 3 4 5 6
熱損失係数(W/m2K) 1.6 1.9 2.4 2.7 2.7 3.7

地域区分

1 北海道
2 青森県・岩手県・秋田県
3 宮城県・山形県・福島県・栃木県・新潟県・長野県
4 茨城県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・富山県・石川県・福井県・山梨県・岐阜県・静岡県・愛知県・三重県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県・鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県・徳島県・香川県・愛媛県・高知県・福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県
5 宮崎県・鹿児島県
6 沖縄県

熱損失係数(Q) 石川県:地域区分(4) = 2.7 (W/m2K)

我が家で暖めようとしている床面積は、6畳x4 = 39 m2

内外温度差は、室温20℃、外気温0℃として、20℃

なので、部屋から逃げる熱量 W/hr は、

2.4 Q × 39 m2 × 20 ℃ = 2099 W/hr

これが我が家に必要な暖房能力。例えばПТОУ-2500の暖房能力は、

薪を充填して焚くことを、1日に1回、1.25時間行うと、1700 W/hr。1日に2回、合計2.5時間行った場合:2500 W/hr。

余裕だった! ペチカの暖房能力の計算方法は後述

設計方法 CAD か 鉛筆 か

昨冬2D-CAD(LibreCAD)でオクドの設計をしたら、ひと冬かかった。今回の講師の筒井さんが方眼紙と鉛筆で設計をされているのを見て、自宅に帰ってから試したら、あっというまに図面が3つできてしまった。私にも方眼紙と鉛筆が合ってたみたい。

2D-CADを選んだ理由は、コピペができるから。つまり煉瓦を1つ1つ描かなくてよい点がいいと思ったんだけど、割と1つ1つ描いて時間が掛かってしまった (;゚д ...。CADソフトは、身に付くまでに相当練習が要るんじゃないかなぁ。

あと、目地の表現をどうするか。CADだとミリ単位で描けるので、正確なんだが、頑張って設計したのに、いざ煉瓦を積み始めると煉瓦は1個ごとに大きさが違うので、わーいみたいなことに。目地共で例えば110mmと決め打ちで設計して、細部は現場合わせという方が、結局よいみたいだ。

追記:2023/3/27

今でも紙での設計は手軽で良いと思うのだけど、最近は SketchUp (ver. 8.0.16846) という 3D-CAD の無償デスクトップアプリで設計している。当時CADでやりたかった、煉瓦単位でのコピペが、簡単にできる。また5段目から12段目は2段ごとの繰り返しという場合、5と6段を2段まとめて選択して、3回ペーストで完成なんてことが出来て、設計図を書き直すのがすごく楽だ。

設計図を書いて検討する

出来た図面が次の3つ。ПТОУ-2500 が充分な暖房能力を持っているようなので、これを元に設計しなおした。

ロシアの図面ではよく普通煉瓦と耐火煉瓦を組み合わせて積んでいるが、JIS規格ではこれができない。JIS普通レンガ 210 x 100 x 60 mm、JIS耐火レンガ 230 x 114 x 65 mm。同じように3個半並べると、JIS普通煉瓦は目地10mmで 760mm。JIS耐火煉瓦は目地2mmで 810mm。50mm もずれてしまうからだ。なので No.1~No.3に共通して、燃焼室と煙道を隣り合わせで独立して積むことにした。高さはおおよそ合うので、燃焼室から煙道側へ、煙道側から燃焼室側への通路が多少広い狭いしていても、これなら大丈夫。

設計図No.1

ホイロとして使うために、できるだけ高さを抑えて、ペチカの上にパン生地を並べられるようにした。でもまだ25段 1750mm ある。高くて嫁の手、届かない。

オーブンとして使いやすいように燃焼室を広くしたが、そのために、ПТОУ-2500 の利点である煉瓦の積みやさが失われてしまった。

No.1を設計している途中で、先ほども書いたように、ロシアのペチカ図面では耐火煉瓦と赤煉瓦が同じサイズだということに気づいた。そりゃあ設計も施工も楽だなあー。ということで、ПТОУ-2500の図面は日本向けに改良しないと使えないということが、分かった。

設計図No.2

No.1ではパン釜からの排熱をうまく引けないような気がして、煙道を最初に一旦立ち上げることにした。

ホイロ面の高さは、17段 1190mm。かなり低くなった。煉瓦の積み方をПТОУ-2500に近づけて積み易くした。

この図面はよさそうだったんだが、ホイロに使える面積が足りないことが判明した。

設計図No.3 いまのところの最終型

パン釜を接続しないことにした。パン釜の高さは変えられないので、パン釜を接続しようとすると、どうしてもペチカの一部で高い場所が必要になり、嫁の手が届かない。

またパン釜の排熱はペチカを通さなくても、建物内部でなんらかの蓄熱体を通せば要件3.を満たせる。パン釜排熱の夏場の経路は、ダンパーで切り分けて室外の煙突を通す。パン釜と切り離せば、ペチカを本来置きたかった場所に置ける。

8段目を積むときに2丁掛けが1つ必要な以外、特別広い開口部もないので施工が楽。

これでホイロ面の高さ、18段 1260mm。十分低い。

ペチカの暖房能力の計算

ПТОУ-2500とNo.3それぞれ、§ 4. Теплоотдающие и тепловоспринимающие поверхности 1986 Школьник А.Е.に従って暖房能力を計算する。簡単にいうと、前後左右と天面の表面積に1平方メートルあたりの放熱量を掛けるだけ。

煉瓦ストーブ 表面の放熱量 W/hr / m2
側面 下面 天面の厚さ mm
隣接物なし 140 140~210
壁厚120mm以上 550 / 330 0 410 / 250 275 / 165
燃焼室の壁120mm、その他の壁70mm、重量1トン以上 650 / 380 0 490 / 300 325 / 190
燃焼室の壁120mm、その他の壁70mm、重量1トン未満 580 / 350 0 430 / 260 290 / 175

表 2. 煉瓦ストーブ表面の放熱量 W/hr / m2。分子は1日2回焚きの放熱。分母は1日1回焚き。

引用先では、ペチカに隣接物がある場合の減少率がいろいろ書かれているが省略。

ПТОУ-2500 の場合

ПТОУ-2500は、漆喰仕上げ、壁の厚さが120mm、天面は煉瓦3段の210mmなので、引用先の表2から、1日2回焚きの場合、前後左右の壁は 550 W/hr/m2、天面が 275 W/hr/m2 の熱量を放出することが分かる。これを表面積 m2 に掛けると総放熱量 W/hr が分かる。

  • W: 0.51 m
  • D: 0.892 m
  • 有効な高さはロストルから上の部分なので、H = 0.07(32 - 4) = 1.96 m

(+

 (* H D 550 2)

 (* H W 550 2)

 (* D W 275)

)

= 3147 W/hr

これだと公称値より大きい。う~ん、なにが違うんだろう。0.8掛けにしてみると、2518 W/hr でだいたいこんなもんかな~。ゆとり係数0.8が必要ということにしておこう。

No.3 の場合

JIS規格煉瓦はロシア煉瓦より少し小さい。だから時間あたりの放熱量W/hr/m2も違う。JIS規格の煉瓦が小さいということは、同じ図面で作ったらJIS煉瓦の方が早く温まり、早く放熱する。言い換えると蓄熱量が小さく、時間あたりの放熱量は大きい。

壁厚 110~114 mm、重量1トン以上なので、同表から、1日2回焚きの場合、前後左右の壁は 650 W/hr/m2。天面は煙道側が煉瓦3枚の210mm なので 325 W/hr/m2、燃焼室側はロシアの教科書に載ってない形なので期待値 325 W/hr/m2 とする。

  • 煙道側 H: 1.26 m、W: 0.43 m、D: 0.76 m。
  • 燃焼室側 FH: 0.98 m、FW: 0.46、FD: 0.81 m。

(+

 (* H W 650 2)

 (* H D 650)

 (* W D 325)

 (* FH FW 650 2)

 (* FH FD 650)

 (* FW FD 325)

)

= 2656 W/hr

ゆとり係数0.8掛けにすると 2125 W/hr。

2つの設計の比較

ПТОУ-2500No.3
煉瓦(個)420420
表面積(底面除く) m2 5.444.37
放熱量(2回焚) W/hr25182125

No.3はПТОУ-2500に比べて表面積が減った分、放熱量W/hr も減ったけど、我が家の場合 2099 W/hrあればよいので充分な能力だということが分かった。

参考

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