再設計

設計から、2年。梅茶翁のペチカの施行と運用のお手伝いをしてる間、自宅のペチカは放置だった。だけどお陰で、設計を見直す時間は沢山あって、設計図を何種類か書いて最新はNo.6になった。No.6の特徴は煙道がないこと。

えっ!!ペチカに煙道がないって?!

ペチカNo.6のイメージ図

うん。これ見ても、よく分からんね。

ベル型ペチカ

図1 ペチカの煙道システムいろいろ

ペチカの設計図や文献を読み漁るうちに、図1の右上の2つだけが全然別のシステムだと、突然気づいた。これは、煙道の無いペチカ(бесканальная Печь)とか、ベル型ペチカ(Колпаковая Печь)と呼ばれるもの。曲がりくねった煙道が無く、ベル(鐘)の中で火を燃やすような形。

図2 煙道の無い(ベル)対流システム

図2 の真ん中のは鐘が横に2つ並ぶタイプ。右のは1つの鐘の中に障壁のあるタイプ。左の鐘1つタイプが好き。なんだか、とってもシンプル。

シンプル・イズ・パワー

作りがシンプル → 積みやすい → 直しやすい。おまけに掃除しやすそう。いいじゃないか。No.6はこのタイプ。

ロシアのベル型ペチカ Колпаковая Печь

引用 stove.ru

基本構造は底部に出口のある箱 = ベル、鐘。

「ガスの自然な動き」システム

ベルの中で火を燃やすとどうなるのか。

図3 「ガスの自然な動き」システム。熱気が冷気で押し出されない仕組み。

ベル型ペチカの主な利点は、燃焼ガスの流れに対する内部抵抗が低いこと。ドラフトを減らすことなく、主に低温のガスだけを煙突に排出できる。

ベル型ペチカのベル内の燃焼ガスは、重力に従って自然に動く。これは煙突のドラフトに引っ張られて動くのではない。完全燃焼して高温になったガスは軽いのでベルの上部へ移動し、低温の不完全燃焼ガスや燃焼に貢献しなかった空気は重いのでベルの下部へ移動する。また、高温ガスは煉瓦と熱交換をして冷えると下部に移動する。ベル内では温度上昇と同時に過圧が生じ、最下部の最も低温の空気やガスが底部の出口から押し出される(図3)。

このような燃焼ガスの自然な動きを妨げない充分な時間と空間を用意すれば、低温の空気やガスだけがベル外に排出され、大部分の熱はベル内部に保持される

クズネツォフのベル型ペチカ Кузнецова Колпаковая Печь

引用 comfortclub.ru

図4 1:燃焼室 2:縦長の隙間 3:下部ベル 4:熱交換器(? 給湯器やオーブンをつける場合は、上部ベル内に設置が良いとのこと) 5:上部ベル 6:煙突

ペチカの設計で有名なクズネツォフさん。彼が進化させたベル型ペチカ(図4)の特徴は、1:燃焼室と3:下部ベルが2:縦長の隙間でつながっていること。

縦長の隙間

この2:縦長隙間が、高温のガスを3:下部ベルの天井に向かわせ、3:下部ベル内の未燃焼ガスを1:燃焼室に吸い込んで再燃焼させ、乱流の発生に貢献し、炉の熱性能を向上させる。

2:縦長隙間の幅は、毎日稼働するペチカでは2cm、別荘や週末小屋などでは3cm。また縦長隙間と1:燃焼室の上部から3:下部ベルに高温ガスを送り出す穴の断面積の合計は、3:下部ベルの底部からガスを排出する穴の断面積および上昇煙道の断面積以下でなければならない。

燃焼室とベルは別の部屋

クズネツォフの設計のポイントは、燃焼室とベルを分け、薪を小さな部屋で燃やすということ。そうすることで、完全燃焼に必要な高温を作り出す。燃焼室とベルを1つの同じ部屋にすると、昔ながらのペチカになるが不完全燃焼の煙が発生してしまう。燃焼室とベルを別の部屋にしつつ、縦長の隙間のおかげでベル型ペチカの特徴を保てる。

comfortclub.ru から引用のついで

  • 熱変形の係数が異なるため、耐火レンガ炉は外側の赤レンガの箱を壊す可能性があり、相互の隣接点で膨張避けの余白が必要。
  • 経験豊富なストーブメーカーは、積む前にレンガを浸水しない。
  • 窯の焼成はチップから始まり、数時間かけて少量ずつ燃料を加える。

なぜ縦長の隙間が必要なのか

図5

図5 のように熱源が仕切りによってベルから分離され、通路(燃焼通路)が形成されているシステムでは、低温のガスを重力に逆らって持ち上げるのに、煙突のドラフトのような外部の力を必要とする。また煙突のドラフトは全てのガスに影響し、熱いガスもベルの外に引っ張り出してしまう。

図6

図6 のように燃焼通路に隙間がある場合はベル型システムとして機能し、低温のガスはより低い部分の隙間を通り、上昇煙道からは主に低温のガスが排出される。

ドラフトに頼らないってなに?凄いの?

煙突の役目は排煙とドラフト。ドラフトとは、煙突内に生じる上昇圧のこと。この力でストーブに新鮮な空気を取り込み、燃焼を持続させる。普通、薪ストーブはこれがないと薪が燃えてくれない。ドラフトとっても大事。

ドラフトの力の強い煙突にするために、高価な断熱二重煙突を使ったり、煙が自然と抜けるように屋根に穴を開けて真っ直ぐな煙突を作ったりする。一重の煙突を二重にすると値段が2倍。屋根に穴を開けると、さらに倍でお値段4倍に!という業界。

屋外に排煙する力は別として、ドラフトに頼らずに薪が燃えるペチカって、安心して設計できる。

ベル型ペチカを一斗缶で実験

なんだか良いことずくめのベル型ペチカだけど、ベル上部に熱が集中するので部屋の高いところばかり温めてしまう弱点があって、ロシアでは人気ない説もある。

作ってからダメでしたは、辛い。よく分からんときは実験をしてみよう。

写真1 一斗缶で作ったベル型ペチカ

図4 の一階部分だけというもの。小さい家ならそれで十分説があったので。

一斗缶の蓋を取ってひっくり返し、焚き口、吸気口、排煙口の穴を開けて、中に写真2 の仕切りを入れて土間に置いた。土間との隙間は灰で埋めて、レンガとパイプ煙突を適当にくっつけて置く。

写真2 縦長隙間と上部穴を開けた仕切り板

最初の実験では焚き口から煙が逆流した。写真にある天板の焦げは、そのときのもの。

ベル底部にある煙突への出口を広げると逆流が解消し、その後の実験では焚き口扉を開放しても逆流しなくなった。「縦長隙間と上部穴の断面積の合計は、ベル底部からの出口穴断面積および上昇煙道の断面積以下でなければならない。」という公式を実証する結果となった。

燃焼室はある程度狭くて熱量が集中する方がよく、ベルは大きければ大きいほどよいという説を、燃焼室とベルの体積割合を変えながら実験してみたが、違いは分からなかった。

逆流しなくなってからの実験では、ペチカの上下や前後で温度差がほとんど無いという良い結果だった。一斗缶はとても薄い鉄板なので当てにならないけど、逆流した実験の際はベル側の温度がとても低かったことから、伝導熱や輻射熱でベル側が暖まっているのではなさそう。

おっけー。これで行ってみよー。

基礎コンクリートを作る

基礎の下の地面をバサモルでレベル出し。

バサモルの上に型枠を乗せて基礎を作る。中にコンクリクズやグリ石を詰めてかさ増し。レーザーでレベルを出しながらモルタル仕上げ。

炉扉を溶接で作る

電気溶接頑張ってみた。

溶接中

自宅のコンセントでは電圧が足らないので点溶接が出来ないと分かった。

溶接した炉扉

下手くそなので、厚さ4mm×幅50mmのL字鉄板を溶接したら、若干反ってしまう。炉扉は空気を吸うところなので、多少気密性が低くても大丈夫かな。

このあと耐火塗料を塗った。

でもサイズを変更したので、作り直し。

チーン

粘土モルタルを作る

赤レンガの目地材には、粘土と砂を混ぜた粘土モルタルを使う。セメントモルタルは不具合が出てたとき直せないけど、粘土モルタルなら直せる。セメントは自分で作れないし、作るときに大量の熱エネルギーが必要だけど、粘土は生活圏内で採れるから環境負荷少なくていいよね。

日干しレンガで粘土の試験

赤土が耐火性能良いというので、掘って来て、乾かして、ふるっておいた。耐火性能の良い珪砂とブレンド。粘土と砂の割合を試験するために、日干しレンガを作って、焼く。結果は、全滅。ぼろぼろ崩れる。

おかしいので、シェイク沈殿試験をしてみたら、粘土が多いんだろうと何故か思っていた赤土に、粘土がほぼ入っていない! 掘るときに粘土成分の試験をしておけばよかった。

さらに珪砂。袋が破れて安く売ってたものを使ったら、粒が大きい。おかしいので、新品の袋を開けると粒が細かい。どうも、袋が破れてこぼれてしまうのは細かい砂で、残ったのは大きい砂だけみたい。気づくまで時間を浪費してしまった。安売り品を買うときは慎重に!

粘土試験 可塑性(かそうせい)

庭の土の深い所から掘ったものを調べる。シェイク沈殿試験したら粘土入ってるので先に進む。粘着試験、可塑性(かそうせい)試験(*4)に合格。日干しレンガ作ってる時間がないので、これで行くことにする。

湿式の団子落下試験(*5)で砂との割合を決める。今回は粘土2:砂5。

施行の要点など

夢の実現に向けた記念すべき1段目

掃除口のように気密性の必要な開口部を作るときは、型枠に合わせてレンガを積むと、あとで蓋を作り易い。ベルと煙突の掃除口は気密性が大事。

写真のような1段目の下に0段目のレンガを全敷する場合が多いけど、なんでだろ。私はいつも基礎コンの上に直接、掃除口を設ける。

4~5段目

長い薪が端々まで残らず燃えるように、傾斜をつけてロストルに転がり落ちるようにしてある。熾が一ヶ所に集まり空気が吹き付けられると温度が上がるので、ペチカに必要な高温燃焼に貢献する。ロシアのペチカに学んだ形。

ロストルは、鉄鋳物の棒ロストルの270を10本。前後左右に膨張避けの余白を5~6mmとる。

目地

赤レンガと耐火レンガのサイズの違いを吸収するために、横目地は耐火を2~3mm、赤はそれに高さを合わせて7~8mmとした。粘土モルタルの目地は3~5mmにしたいけど、まぁやってみよう。

モルタルを塗る方法はいろいろあるけど、ロシアの教科書に習って手で塗っている。コテは熟練を要するけど、手は生まれてからずっと使って来たから感覚が良く分かる。コテで塗ると2~3mmのつもりがつい厚く塗ってしまうのに、手だと薄く塗れるし、モルタルに塊があってもすぐに分かる。

耐火モルタルも粘土モルタルも、水練りすれば再利用できるので、目地がある程度乾いたら余分をかき取って使う。左官バケツはそれぞれに用意する。

水平垂直

木の水準器を使っていたのだけど、1周積み終わるとレンガの高さがずれてしまう。ケチるとこじゃないので、ちょっと高いけど精度の高い水準器を買った。

水糸を張ったり、枠を作ってレンガ積みがねじれないようにすることが多いけど、高さ1300mmの直方体に枠とか大変だなと思ったのでやってない。水平は水準器。垂直は目寸法で積んで、たまにレーザーで確認する。

夢を実現させるには

なんかもう、時間掛かり過ぎるからやめるかと思い始めてた。けどこれ、おれの夢だから。

アルケミスト に書いてあったよな。

夢が実現する前に、大いなる魂はおまえが途中で学んだすべてのことをテストする。それは悪意からではなく、夢の実現に加えて、夢に向かう途中で学んだレッスンを、お前が自分のものにできるようにするためだ。ここで、ほとんどの人があきらめてしまう。これは、われわれが砂漠のことばで、『人は地平線にやしの木が見えた時、渇して死ぬ』と言っている段階なのだ。

すべての探求は初心者のつきで始まる。そして、すべての探求は、勝者が厳しくテストされることによって終わるのだ。

もう一歩で夢が実現するというときが、一番困難に感じるとき。ガンバ炉ー!

ペチカとは

ペチカ(печка)とは、ロシアで広まった煉瓦で出来た蓄熱式の薪ストーブ。フィンランドのソープストーン・ストーブ、スエーデンのCronstedt Wrede kakelugn、ロシアのペチカ、アメリカのメイスンリー・ヒーターはどれも蓄熱式ストーブ(Masonry heater)。アメリカではダブルスキンのストーブを指してメイスンリー・ヒーターと呼ぶ場合があるらしいけど、広い意味での蓄熱式ストーブ(Masonry heater)ね。

蓄熱式ってどういうことか説明するには、日本で薪ストーブといえば想像するだろう鉄で出来たストーブの仕組みを説明しないといけない。

鉄ストーブは蓄熱しない。分厚い鉄板なら、ある程度は蓄熱するけど、蓄熱式ストーブと比べると、しない。だから薪が燃えてる間は暖かいけど、火が消えると冷える。一気に暖まって一気に冷える。でも高級な鉄ストーブには、2次燃焼の仕組みがあって。太い薪をゆっくり燃やすことができるので、ある程度長い時間暖かい。でもやっぱり、火が消えると冷える。

ペチカなどの蓄熱式ストーブは、細く割った薪を一気に高温で燃やして、石や煉瓦に蓄熱させ、火が消えた後じわじわと放熱する方式。1日に1回か2回、例えば朝起きたら1回と夕方1回火を焚けば、あとは1日中放っといても部屋を暖かくしておける。そのかわり長期留守の後など、完全に冷えてる状態からだと、煉瓦がちゃんと暖まるまで2~3日かかる。

私がペチカに惹かれたのは、古くからDIYされてきた歴史があって、自分で作りメンテナンスする方法がとても詳しく公開されている点。さらに、すごい種類の設計があって、どんな家にはどんな設計が向いているとか、これも、とっても詳しい情報が公開されている点。ロシア語分かんないけど、コンピューターが翻訳してくれる時代で、ほんと助かった。

参考

ペチカに使用する燃料は薪や石炭であるが、なるべく短時間に高温で燃やすことが求められるため通気は煙突ダンパー、空気調整口共に全開で燃やす。薪は温度を高くするために小割りにしたものが望ましく、燃料は暖炉や薪ストーブのように徐々に足して燃やさずに焚き口に入る量の燃料すべてを一度に燃やすのが肝心である。燃料から明るい炎が見えなくなったら煙突ダンパー、空気調整口共に半ば閉じ、熾が暗赤色になったら煙突ダンパー、空気調整口共に完全に閉鎖し、ペチカに蓄熱された熱を閉じ込める。レンガなどで造った壁面の輻射熱で部屋を暖める。設計にもよるが、燃料を燃やして得られた熱量のうち90%以上を暖房として用いる事が出来るため様々な暖房を比較しても極めて効率の良い暖房であり、暖房必要期間が長い北国に於いて重宝される。暖房としての立ち上がりが遅いのが欠点だが、一度暖まるとペチカ特有の心地よさがある。

この記事が気に入ったら →

いいネ!

「#作る」最新記事

ペチカを作る。その3。完成 2021-10-14
農家の手仕事。野良着を縫う 2021-08-13
新作。薪火で調理するオクド2型。 2021-04-13
穀物の脱穀の仕方 2021-01-20
オクド1型。版築で作ったオクドを1年使ってみて 2020-08-01
能登産の木材で踏み天井用の板作ったよ! 2020-02-12
貝灰できた 2019-08-22
珪藻土煉瓦もアサヒキャスターも消耗品です 2019-08-21
チェーンソーが片方に切れ込んで行く理屈と直し方 2019-05-01
Cob House 藁版築 light straw clay 2019-04-01