再設計

最初の設計から、2年。梅茶翁のペチカの施行と運用のお手伝いをしてる間、自宅のペチカは放置だった。だけどお陰で、設計を見直す時間は沢山あって、設計図を何種類か書いて最新はNo.6になった。No.6の特徴は煙道がないこと。

ペチカNo.6のイメージ図

煙道の無いペチカ

図1 ペチカの煙道システムいろいろ

ペチカというと、燃焼室で薪を焚いて出た高温の気体を、曲がりくねった細長い煙道に通して、気体が煙道と熱を交換するというイメージが強いと思う。こういうのは煙道型ペチカとか、強制気流型ペチカ呼ぶ。

しかし、図1の右上の2つは煙道型とは別のシステム。これは、бесканальная Печь(煙道の無いペチカ)とか、Колпаковая Печь(鐘の形のペチカ)と呼ばれるもの。

曲がりくねった煙道が無く、底に穴の開いた大きな箱の中で火を燃やすような形。箱の中に熱いガスを拡散させて箱と熱を交換をする、「燃焼ガスが自然に対流する」仕組みを使っている。

「燃焼ガスが自然に対流する」仕組み

このタイプのペチカの基本構造は、図2 のように底がない箱。

図2 箱の中の燃焼ガスの動き

このような箱の中で火を燃やすと、燃焼ガスは自然な対流を起こす。高温の気体は軽いので上部へ移動する。箱と熱交換をして冷えた気体は重いので下部へ移動する。熱気は天井付近に溜まり冷気で押し出さることがない。温度上昇と同時に過圧が生じ、最下部の低温の気体が下部の出口から押し出される。このような燃焼ガスの自然な動きを妨げない充分な時間と空間を用意すれば、気体の冷たい部分だけが外に排出され、大部分の熱は内部に保持される

箱の形は高い筒、筒と水平なベンチ、筒の回りを取り囲んだベンチなど、様々な形をとることが出来る。

対流型ペチカと呼ぼう

ロシア語の бесканальная Печь(煙道の無いペチカ)も、Колпаковая Печь(鐘の形のペチカ)も、日本語の名前としては、なんだかしっくり来ない。ガスが温度変化に応じて自然対流するペチカなので、「対流型ペチカ」と呼ぶことにしよう。

クズネツォワ型の対流型ペチカ Кузнецова Колпаковая Печь

図3 1.燃焼室 2.縦長の隙間 3.対流室 4.対流室 5.煙突

ペチカの設計で有名なクズネツォワさん。彼が進化させた対流型ペチカ(図3)の特徴は、1.燃焼室 と 3.対流室 が 2.縦長の隙間 でつながっていること。

図1 の煙道なしペチカでは燃焼室の上に対流室があるれど、クズネツォワ型は燃焼室と対流室を並列できるところがいい。

燃焼室と対流室は別の部屋

クズネツォワの設計のポイントは、「燃焼室」と「対流室」を分け、狭い筒状の燃焼室で集中して薪を燃やすということ。そうすることで、完全燃焼に必要な高温を作り出す。「燃焼室」と「対流室」を同じ1つの部屋にすると、熱が拡散するので高温にならず不完全燃焼の煙が発生してしまう。「燃焼室」と「対流室」を別の部屋にするが、対流型ペチカの特徴を保つために「縦長の隙間」を設ける。

縦長の隙間とは何か

次にあげる図4と図5は、燃焼室と対流室の仕切りを横から見た模式図。

図4 仕切りに隙間なし

図4 のように熱源が仕切りによって対流室から分離されて、燃焼室が隔離されているシステムでは、高温の気体と同時に低温の重い気体を、重力に逆らって持ち上げる必要があり、煙突の牽引力(ドラフト)のような燃焼以外の力を必要とする。この場合煙突の牽引力(ドラフト)は全ての気体に影響し、熱い気体も対流室の外に引っ張り出してしまう。

図5 仕切りに隙間あり

図5 のように燃焼室と対流室を隔てる仕切り壁に縦長の隙間がある場合は対流型ペチカとして機能する。実際の隙間はこういう形ではない。これはあくまで説明用の模式図。

低温の重い気体は低い部分の隙間を行き来し、高温の軽い気体は高い位置の隙間を行き来するので、煙突からは主に低温の気体が排出され、高温の気体は熱交換するまでのあいだ対流室の上部に留まる。燃焼室と対流室内のガスは、煙突の牽引力(ドラフト)の強弱に関わらず、重力に従って移動する。

縦長の隙間を設計する上での注意点

次にあげる図6は、実際の縦長の隙間の形を説明している。燃焼室と対流室の仕切りを燃焼室側から見た図。

図6 縦長の隙間

主に低温の気体が通る隙間を青色で、高温の気体が通る隙間を赤色で示した。

低温の気体が通る隙間の幅は、毎日稼働するペチカでは2cm、週末だけ稼働するペチカでは3cmが妥当とされる。また、低温の気体が通る隙間の断面積と高温の気体が通る隙間の断面積を合計した面積は、対流室の下部から気体を排出する穴の断面積、および煙突の断面積以下でなければならない。図6のように、No.6では低温の気体が通る隙間と高温の気体が通る隙間は同じ幅になったが、煙突が太い場合は、高温の気体が通る隙間の幅がもっと広くても良い。

牽引力(ドラフト)に頼らないってなに?凄いの?

煙突の役目は排煙と牽引力。牽引力(ドラフト)とは、煙突内に生じる上昇圧のこと。この力でストーブに新鮮な空気を取り込み、燃焼を持続させる。薪ストーブはこれがないと薪が燃えてくれない。牽引力(ドラフト)はとっても大事。

牽引力(ドラフト)の強い煙突にするために、高価な断熱二重煙突を使ったり、煙が自然と抜けるように屋根に穴を開けて真っ直ぐな煙突を作ったり、外に出た煙突を高くしたりする。一重の煙突を二重にすると値段が2倍。屋根に穴を開けると、さらに倍でお値段4倍に!というくらい大事。煙突の牽引力(ドラフト)がちゃんとしてないと、煙が室内に逆流して、大変ということにもなる。

屋外に排煙する力は必要だけど、牽引力(ドラフト)が弱くても薪が燃え続ける対流型ペチカは、煙突を低くできるのがいい。

クズネツォワ型の対流型ペチカを一斗缶で実験

良いことずくめに思える対流型ペチカだけど、上部に熱が集中するので部屋の高いところばかり温めてしまうところが弱点だと言われる。

大きなものを作る前に、小さく実験をしてみよう。

写真1 一斗缶で作った対流型ペチカ

図3 から 4.対流室 を省いたシステムで実験する。対流室が1つのタイプはペチカにしては小さく作れて、こじんまりした家には十分な性能と言われる。背が低いペチカを作りたくて、設計をくり返してきたので、これはよいと思う。

部屋に必要なペチカの大きさはこちらの記事で

ペチカその1。設計。暖房能力の計算

一斗缶の蓋を取ってひっくり返し、焚き口、吸気口、排煙口の穴を開けて、中に写真2 の仕切りを入れて土間に置いた。土間との隙間は灰で埋める。焚き口扉はレンガ。パイプ煙突をいい具合にくっつけて置く。

写真2 「縦長の隙間」の開いた、燃焼室と対流室を仕切る板
  1. 最初の実験では焚き口から煙が逆流した。写真1にある天板の焦げは、そのときのもの。対流室下部にある煙突への出口を広げると逆流が解消し、その後の実験では焚き口扉を開放しても逆流しなくなった。「縦長の隙間の断面積の合計は、対流室下部からの出口穴の断面積および煙突の断面積以下でなければならない。」という公式を実証する結果となった。

  2. 燃焼室はある程度狭くて熱量が集中する方がよく、対流室は大きければ大きいほどよいという点を、燃焼室と対流室の体積割合を変えながら実験してみたが、違いは分からなかった。

  3. 1.の改良により、逆流しなくなってからの実験では、ペチカの上下や前後で温度差がほとんど無いという結果だった。一斗缶はとても薄い鉄板だけど、逆流した実験の際は対流室側の温度がとても低かったことから、伝導熱や輻射熱で対流室側が暖まっているのではなさそう。

簡単な実験だけど、この構造で煙突からの排煙が出来ると分かったし、ペチカ全体が暖まるのを確認できた。では、実際に作ってみよう。

施行の様子

基礎コンクリート

写真3

基礎の下の地面をバサモルで水平にする。

写真4

バサモルの上に型枠を乗せてセメントモルタルを流し込んで基礎を作る。セメントは流し込み施行すると、不透水性が出る。コンクリクズやグリ石を中に詰めてかさ増し。最後にレーザーで水平を確認しながらモルタル仕上げをする。

炉扉を溶接で作る

電気溶接で燃焼炉の扉を作る。

写真5 溶接中

自宅のコンセントでは電圧が足らないので点溶接が出来なかった。

写真6 溶接した炉扉

下手くそなので、厚さ4mm×幅50mmのL字鉄板を溶接したら、扉が若干反ってしまう。炉扉は空気を吸うところなので、多少気密性が低くても大丈夫。

このあと耐火塗料を塗った。

でもサイズを変更したので、作り直し。

チーン

粘土モルタルを作る

赤レンガの目地材には、粘土と砂を混ぜた粘土モルタルを使う。セメントモルタルは不具合が出たとき直せないけど、粘土モルタルなら直せる。セメントは自分で作れないし、作るときに大量の熱エネルギーが必要だけど、粘土は生活圏内で採れるから環境負荷少なくていいよね。それから、セメントモルタルより粘土モルタルの方が、施行が早い。

写真7 日干しレンガで粘土の試験

赤土が耐火性能良いというので、掘って来て、乾かして、ふるっておいた。耐火性能の良い珪砂とブレンド。粘土と砂の割合を試験するために、日干しレンガを作って、焼く。結果は、全滅。ぼろぼろ崩れる。

おかしいので、シェイク沈殿試験をしてみたら、粘土が多いんだろうと思っていた赤土に、粘土がほぼ入っていない! 掘るときに粘土成分の試験をしておけばよかった。

さらに珪砂。袋が破れて安く売ってたものを使ったら、粒が大きい。おかしいので、新品の袋を開けると粒が細かい。どうも、袋が破れてこぼれてしまうのは細かい砂で、残ったのは大きい砂だけだったみたい。気づくまで時間を浪費してしまった。安売り品を買うときは慎重に!

写真8 粘土試験 可塑性(かそうせい)

庭の土の深い所から掘ったものを調べる。シェイク沈殿試験したら粘土が入ってるので先に進む。粘着試験、可塑性(かそうせい)試験(*1)に合格。日干しレンガ作ってる時間がないので、これで行くことにする。

湿式の団子落下試験(*2)で砂との割合を決める。今回は粘土2:砂5。

煉瓦積み

写真9 夢の実現に向けた記念すべき1段目

掃除口のように気密性の必要な開口部を作るときは、型枠に合わせてレンガを積むと、あとで蓋を作り易い。対流室と煙突の掃除口は気密性が大事。

上記写真の煉瓦を1段目としたら、その下に0段目のレンガを全敷する設計をよく見るけど、私はいつも基礎コンの上に直接、掃除口を設ける。1段でも高さを抑えたいときには有効。

写真10 4~5段目

長い薪が端々まで残らず燃えるように、傾斜をつけてロストルに転がり落ちるようにしてある。熾が一ヶ所に集まり空気が吹き付けられると温度が上がるので、ペチカに必要な高温燃焼に貢献する。

ロストルは、鉄鋳物の棒ロストルの270を10本。前後左右に鉄が膨張してもよいよう、空隙を5~6mmとる。

目地塗り

赤レンガと耐火レンガのサイズの違いを吸収するために、横目地の高さは、耐火煉瓦で2~3mm、赤煉瓦はそれに高さを合わせて7~8mmとした。粘土で作るモルタルの目地は、できるだけ薄い方がよく、3~5mmにしたいけど、日本の煉瓦規格ではしょうがない。

モルタルを塗る方法はいろいろあるけど、ロシアの教科書に習って手で塗っている。コテは熟練を要するけど、手は生まれてからずっと使って来たから感覚が良く分かる。コテで塗ると2~3mmのつもりがつい厚く塗ってしまうのに、手だと薄く塗れるし、モルタルに余計な塊が混じっていもすぐに分かるという仕掛け。

耐火モルタルも粘土モルタルも、水練りすれば再利用できるので、目地がある程度乾いたら、はみ出た分はかき取って使う。なので、左官バケツはそれぞれに用意する。

水平垂直

頂き物の木製の水準器を使っていたのだけど、1周積み終わるとレンガの高さがずれてしまう。水準器は精度に信頼性のあるものを使った方がいい。

水糸を張ったり、枠を作ってレンガ積みがねじれないようにすることが多いけど、高さ1300mmの直方体に枠を用意する方が大変なので、今回は用意していない。水平は水準器。垂直は目寸法で積んで、たまにレーザーで確認する。

夢を実現させるには

なんかもう、時間掛かり過ぎるからやめるかと思い始めてた。けどこれ、おれの夢だから。

アルケミスト に書いてあったよな。

夢が実現する前に、大いなる魂はおまえが途中で学んだすべてのことをテストする。それは悪意からではなく、夢の実現に加えて、夢に向かう途中で学んだレッスンを、お前が自分のものにできるようにするためだ。ここで、ほとんどの人があきらめてしまう。これは、われわれが砂漠のことばで、『人は地平線にやしの木が見えた時、渇して死ぬ』と言っている段階なのだ。

すべての探求は初心者のつきで始まる。そして、すべての探求は、勝者が厳しくテストされることによって終わるのだ。

もう一歩で夢が実現するというときが、一番困難に感じるとき。ガンバ炉ー!

参考

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