ペチカ(蓄熱ストーブ)での、煉瓦の積み方を紹介します。
セメントモルタルは使わない
煉瓦を積み上げるときに、煉瓦と煉瓦の間に充填するものを目地材といいます。材料を適量の水で練って作ります。一般的に煉瓦の目地材というと、ポルトランドセメントと砂を材料としたセメントモルタルを思い浮かべますが、ペチカではセメントモルタルを使いません。
セメントモルタルは固まると、元には戻りません。ペチカに補修や改修が必要な際、目地材にセメントモルタルを使っていると、セメントモルタルごと煉瓦を破壊する必要が出て来ます。粘土モルタルならば、水で練れば再利用でき、煉瓦を傷付けることなく改修ができます。
また、煉瓦は粘土を焼いて作られます。目地材が同じ粘土ならば、高温にさらされた際、煉瓦と目地材が同じように膨張し同じように収縮するため、部分的な変形によってペチカに亀裂が入るということが起きません。逆にポルトランドセメントを目地材にペチカを作った場合、目地に亀裂が入りやすくなります。
粘土モルタル
ペチカでは、煉瓦を積み上げる際の目地材に、粘土モルタルを使います。粘土モルタルは、地面から掘った土と、川砂や珪砂でつくることが出来ます。
普通煉瓦(赤煉瓦)の目地に使う最高の粘土は、普通煉瓦をつくるための粘土ですが、耐火モルタル程の耐熱温度は必要ないので、庭を掘って得た粘土で代用できます。粘土モルタルに使う砂は、角の立ったものを使います。煉瓦積みの強度を上げるためには、細い目地が必要なので、粒が1㎜以下の砂が必要です。お薦めの砂は、トーヨーマテランの珪砂5号。粒度0.85㎜ 以下で、耐火度が高く、角の立った粒形ということで、ペチカの煉瓦目地に適しています。
耐火煉瓦を積む際に使う、耐火モルタルも粘土モルタルの一種です。耐火モルタルは耐火煉瓦と同じように、耐熱温度の高い粘土で作られています。
粘土は、地面を掘ると深いところには、ほぼ必ず有ります。しかし、表土が砂質の場所では、数メートル掘らないと粘土が無いかもしれません。田んぼには、おそらく粘土があります。どうしても身近な環境で粘土が見つからない場合は、左官用の中塗り用粘土を購入する必要があります。
掘りとった粘土の試験と粘土モルタルの作り方は、こちらの記事で詳しく書きました。
積み方の種類
煉瓦の積み方には、さまざまな種類があるが、ペチカで使うのは主に図の「小端立て積み」と「長手積み」です。
煉瓦の各面には、平面(ひらめん)、長手面(ながてめん)、小口面(こぐちめん)という呼び名があります。
煉瓦は濡らさない
ペチカで普通煉瓦を積む際に使う粘土モルタルには、セメントモルタルのような水和反応が必要ないので、煉瓦を濡らさずに積みます。濡らさないのは、その分施工が速くなるから、ペチカが完成したあとで乾燥させる日数を短くできるからでもあります。
耐火煉瓦の目地材に使う耐火モルタルは、加温によって硬化するものが扱い易いです。耐火煉瓦は濡れた状態で加熱すると壊れるので、これも濡らさずに積みます。
目地の厚み
目地の厚みは、耐火煉瓦が1㎜、普通煉瓦が3〜5㎜になります。
JIS耐火煉瓦の目地は規格上2㎜ですが、より堅牢に積むために横目地(水平面の目地)は、煉瓦同士が部分的に触れ合うようにできるだけ薄く積みます(約1㎜)。普通煉瓦の目地は、規格上は10㎜ですが、ペチカの目地は3〜5㎜が望ましいので、なるべくこれに近づけます。
実際の手順
正確に早く煉瓦を積むために、煉瓦をその場所で事前に仮積みしましょう。仮積みは一段ごと行い、煉瓦に不足がないか、どういう順番で積むのか確認します。確認ができたら、一旦手の届くところに避けておき、実際に積んでいきます。
耐火煉瓦の薄い目地を作るためには、こつが要ります。まずモルタルの粘度を弛くすることが重要です。設置しようとしている煉瓦を先の煉瓦積みに対して少し押さえつけただけで、余分なモルタルが簡単に目地から絞り出されるように、水分と粘土の割合を調整します。またモルタルを厚く塗っておいて、設置の際にトンカチで叩いて絞り出そう、とはしないで下さい。モルタルの水分はすぐに、煉瓦に吸収されてしまいます。モルタルが脱水されてしまうと、煉瓦を動かしたり、モルタルを絞り出したりはできなくなります。これでは薄く均一な目地はできません。煉瓦は、脱水されない間に、素早く設置する必要があります。なのでモルタルの量を間違えたまま煉瓦を設置してしまった場合、あとから調整することはできないので、潔くモルタルを外して塗り直してください。
粘土モルタルも、加温で硬化する耐火モルタルも、失敗して剥がしたものを再利用できます。耐火モルタルには、空気と反応して硬化するものもありますが、こちらは作業中に空気と触れないように気を付けていないと、固まって使えなくなってしまいます。
はみ出たモルタルは、すぐに手やコテで取り、再利用のためにバケツへ戻します。バケツは粘土モルタルと、耐火モルタル用を、それぞれ準備しておきます。バケツの中のモルタルは、粘度がちょうどよくなるよう、常に水分を調節し、コテで混ぜながら使います。
積み上がった一段ごとに、煉瓦を濡れ布巾で拭き、壁面の内側にモルタルが残らないようにします。モルタルが残っていると、煤が付着しやすくなります。
ペチカの外側に土を塗って仕上げる場合は、塗り土が食いつきやすくなるように、目地を完全には充填せずに残します(次図 a)。土塗り仕上げの予定がなければ、目地を綺麗に埋めます(b)。その際、耐火煉瓦の場合は目地が薄いので、指で塗り込みます。普通煉瓦の場合は、目地幅に応じた目地コテを使って塗り込みます。
ここで、薄い耐火煉瓦の目地を正確に作るために、モルタルを手で塗る方法を紹介します。モルタルは手で広げると水分量や煉り具合が分かり易く、また混入した小石を除去することができるので、薄く均一に塗ることが出来ます。といっても、手のままだと荒れるので、ビニール手袋をします。
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左手に乾燥した煉瓦を取る
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右手で一握りのモルタルを取って設置先煉瓦の上に置き(a)、指を伸ばしてモルタルを均一に塗る(b)
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左手の煉瓦の垂直面に少しモルタルを塗り、設置箇所に置く
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煉瓦同士を擦り付けるように煉瓦を前後に動かし、薄い目地を作る(c)
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片方または両方の手で左手の煉瓦を強く押して、モルタルを前方に押さえつけ、余分なモルタルを絞り出し、垂直な目地を作る(d)
コテでも熟練すれば同様のことを行えます。
参考
- 自分の手でペチカを作る Кладка печей своими руками (1983)
- THE BOOK OF MASONRY STOVES (1984) David Lyle
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