目次
畝の立て方次第で畑が育つ
これまでの畝立て
図1、2、3は、畑のイメージ図。波波の黒い線が等高線、透過の赤が畝、黒い外枠が畑の外辺。
緩やかな傾斜の畑に、当初図1のように畝を立てた。でも何年か前に、これでは畝の頂上付近の傾斜がきつくて乾き過ぎ、野菜の育ちが悪いので、次の図2のような畝立てに変えた。
こうすると傾斜が緩くなるので、ましになったけど、畝によってはまだ頂上付近が乾きすぎる。
この畝の立て方は、まだ畑の外辺に沿っているところが普通だよな。
で、悩みは続く。
この畑を開墾したときは長年の有機物の堆積のおかげで、すごく豊かな土壌だったけども、開墾したのち真夏に草を刈ると有機物が急激になくなって、すぐに痩せてしまった。畝のまわりの崖や耕作放棄地から草を刈ってきて畝に沢山敷けば、なんとか野菜も育つ。でも厚く敷くための草を崖から持って来るって、すごい量が必要で大変。この畑に自然に生えてくる草はヨモギがほとんどなんだけど、真夏に草刈りすると頂上付近はヨモギも生えてこない。
ヨモギばっかりで他の草が生えてこない土は、急湿・急乾な場所
だと分かってはいたが、どうしたらいいかが分からなかった。
パーマカルチャーのスウェイルに出会う
パーマカルチャーの映画の取材に来たノブにこの悩みを話したら、スウェイルという技術を教えてくれた。
スウェイルとは
swale 浸透溝
畝は直線的に作るものという考えから離れて、等高線にそってスウェイル(浸透溝)を掘ると、水は流れが遅くなり、圃場から逃げることなく、地中に浸透していく。
溝でなく、等高線上に木や石を並べてとても低い壁をつくってもよい。重力に従って垂直に移動しようとする水の流れを水平に展開することで、流れを緩やかにし、水が地中に浸透するための時間を作り出す技術。
粘土質の畑の排水性と通気性を高めるためには、雨水をなるべく畝や畑からすばやく逃すのが良いと学んできたのだけど、雨水をその場で地下に浸透させる考え方があるんだね。
そこで図3のように等高線に沿った畝に変えた。あくまでイメージ図。実際こんなお椀を逆さにしたような地形の畑だったら、頂上はどのみち乾燥するので、畝じゃなくて池にするか、作業小屋を建てるか、乾燥に強い果樹を植えると思う。
実際の畝が次の写真1。2本の茶色っぽい溝が、スウェイルの溝。2本のスウェイルの間に細い畝がいくつかある。
変化はすぐに表れた。ヨモギが生えてこない。苗の時点では生育に差のあった野菜のその後の成長が揃ってきた。適度に保湿されてるので、イチヂクの挿し木が全部活着した。
これはすごい。
スウェイル溝を複合的に使う
スウェイルは、水を地下に浸透させるのが目的なので、裸にしておいて土が乾いて固まると都合が悪い。また作業道と兼用にしておきたいので土を踏み固めないようにしたい。そこで、分解しにくい大きめの有機物でスウェイルを埋めることにした。剪定枝、イガグリ、杉葉、大豆の木や殻、オガクズなど、これまで使い道のなかったものに、利用価値が出来た。これは草抑えもしてくれる。この有機物は何年かして堆肥に変わったら、畝に掘り上げて使う。
それと、これは期待なんだけど、スウェイル=畝間を粗雑な有機物で埋めると、畝と畝が菌糸のネットワークでつながるだろうと思ってる。
こういう、1つが複数の機能をもつようにデザインするのが大事だと、パーマカルチャーから学んだ。
キーライン
さらに写真左のスウェイルはキーラインに沿わせた。
キーラインとは
土地の傾斜角度が急に緩やかになる地点を結んだ線のなかで、最も谷底になる地点で、地下水が湧きやすい地点をキーポイントと呼ぶ。キーポイントのちょっと下を中心とした等高線がキーライン。
キーラインに沿ってスウェイルを作ると、表層水だけでなく、地下水の流れも緩やかにして畑全体に均一に分配できる。
適度な水分と酸素
なぜ急湿・急乾が土壌によくないのか、Permaculture Home Garden で以下のように書いてあった。
シートコンポストは、畑全体を醗酵中の巨大なコンポストのように扱います。 比較的薄いコンポストの層を必要な箇所に作り、残りの仕事は常在の生き物群に任せることができます。 シートコンポストを成功させるには、細菌、真菌、虫、昆虫、脊椎動物など、それぞれの生き物が個体数を維持するのにお互いに必要とする種類の土壌生物が十分に住んでいる必要があります。
この個体群を維持し、また作物が枯れないだけの水分が必要ですが、過度の水分は土壌生物を溺死させたり、栄養素を流亡させてしまいます。必要十分な酸素も同じように重要です。必要十分な水と酸素の両方を維持する唯一の方法は、厚いマルチで土壌を覆うことです。これにより、一定の水分レベルが維持され、水やりが最小限に抑えられます。
土壌を水で飽和させると、堆肥の山を水で飽和させるのとまったく同じ結果になります。それはすべての好気性の生命を殺し、嫌気性生物のみに適した特殊な環境を作ります。その後、土壌が再び乾くと、嫌気性生物も死んでしまいます。これは、土壌生物がすべて死んだ土壌をとても素早く作り出します。
Permaculture Home Garden | Linda Woodrow, p.79
確かにコンポストを長い雨にさらすと発酵が止まる。次の発酵を始めるには、乳酸菌が豊富な米ぬかを追加して、切り返しで酸素を含ませないといけないことが多い。発酵が止まらないようにするには、ビニールシートや屋根掛けをして水分率を調節する。分厚いマルチが、ある程度その代わりになるのか。
シートコンポストって、川口さんの自然農でいう刈り敷きと同じ。でもこれをやっても、傾斜がきついとやっぱり乾燥し過ぎるし、水の勢いで土壌生物群が流されてしまっていると感じていた。スウェイルを使った畝の立て方なら、水の勢いを調節できる。大地の再生講座の矢野さんの点穴や龍の道と似ていて、水と、水の動きに伴う酸素を土中深くに取り込み、畝の地下に水を蓄えることができる。
平地の畑でも、スウェイルの考え方は効果があると思う。地下に浸透しない分の雨水は、傾斜地でなくても畑から溢れて土壌を流亡させてしまうか、畑を水浸しにして土壌生物群を死亡させてしまうから。
等高線に沿う方法
スウェイルでは等高線に沿って溝や畝を作るって分かったけど、実際にはどうやるのかというと、写真2のような水準器を使う。
これはA水準器といわれる道具。長さの同じ2本の足を写真のように三角に繋げて、頂点から重りを紐で吊るしておいて水平を見る。
使い方
準備として、まず水平に近い場所で横棒に紐の位置を記す。まったく同じ場所で足を左右入れ替えて、もう一度紐の示す点を横棒に記す。2つの記しの中間点を、水平時の記しとして、目立つように記す。
畑で、中心の記しをしたところに紐が来るとき、両方の足は同じ高度にある。そこで両方の足に目印の杭を立てる。どちらか片方の杭に片足を置いたまま、もう片足は次に進み、水平となる位置に置く。杭を立てる。これを繰り替えしていくと、等高線に沿った杭の列ができる。
(Permaculture: A Designers' Manual, p.234)
溝型のスウェイルを作る場合は、杭に沿って、図4のように土を掘り上げる。スウェイルと普通の畝間の違いは、広く深いこと。畝を逆さにしたような、大きさ。
段々畑
出来上がった畑は、傾斜地で昔から行われてきた段々畑だった! えぇっ! オーストラリア発のパーマカルチャーに学んで出来た畑が、山村の昔ながらの畑!
これまで農の本で、こういう話を読んだことがなかったなー。パーマカルチャーの世界では、めっちゃ有名な概念らしい。農が機械化されるにつれて段々は平らにならされて、1筆の畑の面積が広くなってきたけど、自然農のような機械を使わない農では、1筆ごとが狭く細長い、段々畑の方が理に適ってる。常に適度な水分と酸素を含んだ畝に加えて、作業中、移動に上り下りがないので、とっても楽。
こういう背景の仕組みを分かっていたら、昔からの技術や習慣から、学ぶことも増えるってもんだな。パーマカルチャーを意識しなくても、里山での暮らしを工夫していたら、自然とパーマカルチャーになっていくんだと思っていた。でもこれで、パーマカルチャー的なデザインを勉強する気になった。出会いに感謝やわー。ノブありがとー。
コオロギによる食害への対処方法
パーマカルチャーの話題をもうひとつ。
カエルの住処として池を作った。川口さんの自然農では、畝に生えた草や足りなければ崖などの草を刈って、畝に敷き、その場で堆肥化させる。これが、コオロギ大好きな住環境で困る。毎年大勢のコオロギがいて、白菜の苗も、人参の葉っぱも、すごい食べられちゃう。Permaculture Home Garden を読んでいて、カエルを飼えば、っていうか池を作ると勝手に住み着くんだけど、カエルがコオロギめっちゃ食べてくれるよっ、ていう自然共生の技術が紹介されてて、すぐ取り入れた。
カエルが繁殖するのは春なので、来年の準備かなと思っていたけど、ひと雨降ったら、速攻で20匹くらい住み着いた。これはすごい。
そのお陰かどうか、白菜が順調でホッと安心。上手く行きそうなので、水質浄化とカエルの逃げ場確保のために、越冬水草のマツモを購入して浮かべた。
収穫の秋
コンニャク芋は寒さに強いので畑で冬越しできるんだけど、掘って植え替えないと混んでしまうので毎年掘る。大きいのが3年もの。右下端のちっこいのが、今年生まれた鬼子。
長ネギは風に強い牛角型の品種を育種し続けている。
今年落花生とオクラが発芽しなくて、何度も蒔き直した。落花生は掘ったら、洗って、ネットで1ヶ月軒下乾燥させる。里芋やサツマイモと同じく、カビずに保存させるには、しっかり乾燥が大事。
高きび去年は作りすぎたので、少し減らした。減らした分手厚く育てたら、収量があんまり変わらなかった。
小豆は畑での莢ぼりを今年は1回しかしなかった。あとは株ごと収穫して、まとめて莢を外した。莢が爆ぜないギリギリのタイミングでの収穫が大事。
柵の保全をしっかりできたので、今年のサツマイモはイノシシに食べられることなく収穫できた。サツマイモは緑化しにくいので、お日様と風に当てての乾燥がしやすい。
冬瓜採れすぎて、困った。10株に80個も成った。来年は3株でいいわ。しかし、痛むのが早い今年は。冬瓜の畝の土壌生物群の量とバランスが悪いのだと思う。困った。半分ニワトリの緑餌だ。
庭の柿木2本からで、100個ちょっと吊るした。タイミング良く干せてるけど、こう暑いと再度活発になったスズメバチに齧られる。はやく寒くならんかな。
参考にした本
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Permaculture: A Designers' Manual | Bill Mollison, Reny Mia Slay | Amazon
パーマカルチャーのデザイン技術と農技術に関する百科事典。いきなりこれを読むと情報量の多さで頭がくらくらするので、まずは次の入門編を読むのがおすすめ。 -
パーマカルチャー―農的暮らしの永久デザイン | ビル モリソン, レニー・ミア スレイ | Amazon
Permaculture: A Designers' Manualの入門編を和訳した本。日本語で読める本の中で、最も詳しくパーマカルチャーの技術が書かれていると思う。入門編だけあって分かりやすい量と表現にまとめてあるけど、それでもどっから始めたらいいのか分かんなくなるので、一読したら、次の応用編をやってみるのがおすすめ。 -
Permaculture Home Garden | Linda Woodrow | Amazon
パーマカルチャーの技術で、1~7家庭分の野菜を栽培する応用例が体系的に書かれた本。自然と共生する農の技術書としても貴重。まずは出来るところから実践してみて、体験を積みながら、何度も通読するのが吉。
パーマカルチャーの映画を応援しています
パーマカルチャーを通して、自然と共生する”豊かさ”を見つめる映画。クラウドファウンディングで映画編集に必要な資金を募集中。
日本各地、アメリカ西海岸のパーマカルチャーサイトや持続可能な暮らしを実践してる人々を訪れ、映画を撮っています。随時各地の活動を観て体験できるツアー動画も配信中!
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