新しいオクドが出来た

ロケットストーブ、薪火の囲炉裏、薪火の七輪、ブリキのストーブなどを、生活の中で使ってきて、これが現時点の最高の調理器具。

このオクド(カマド)は、右下の炉ひとつに小枝のような薪を燃やすと、炎が右の鍋の底、左の鍋の底へ順に当たり、同時に2つの鍋でお湯を沸かしたり揚げ物をしたりできる。煙は背部の煙突から抜ける。オクドの足元は空洞になっていて、薪を置いておける。

素材は珪藻土レンガ

地元珠洲市の特産、珪藻土レンガで作った。珪藻土レンガの断熱性のお陰で少しの薪で調理が出来る。それ自体が構造体になる断熱素材って最高。ノコギリで加工出来てしまうところもいい。珪藻土レンガは摩耗に弱く、常時高温で使用すると溶けるので、強い火や薪のぶつかる所には耐火レンガを使った。

参考:断熱レンガと耐火レンガの違いや使い方

内部の構造

積み図の5段目:燃焼室、火袋、煙道、煙突への出口が分かる

煙突を背面から出すことで、天面をコンパクトにした。逆に鍋穴(釜輪)の手前は、鍋の仮置きスペースを確保したいのと、長い薪が入れられるよう広くとった。

図の右の一番穴の中心近く、四角い点線の下が燃焼室。一番穴から二番穴への煙道は水平。二番穴の下で急角度に右折。しかし折れただけでは炎が素通りだったので、バッフル(A)を置いて二番の鍋底に炎が当たるようにした。熱が逃げないように、バッフルから煙突へは、すごく狭い煙道を下降する。これで煙突が引くのは、珪藻土レンガでしっかり断熱されてるのと、外の煙突をすごく高くしたから。

愛農かまど(*3)のような、羽釜を鍋穴にズボッと入れるオクドでは、燃えた炎が鍋の周囲を回るための空間、火袋が大事。火がグルッと回るよう、なるべくなめらかな火袋にする。だけど、我が家では底の平たい鍋を1度の料理で何種類も使って料理をする。だからオクド弐号では鍋を穴にズボッとは入れず、鍋底全体に炎が当たりさえすればいいので、火袋を丸くしないでレンガ加工がしやすいよう直線的にした。

珪藻土煉瓦は規格がしっかりしてるので、目地がなくても正確に積むことができる。数ミリのズレは、煉瓦を平らなコンクリ床などで削れば修正できる。だから目地は打ってない。

設計の基本思想は、シンプル・イズ・パワー。壊れても、また作ろうって気になる作り。火を燃やす装置ってのは、どうあがいたって消耗品だから、簡単に修理や作り替えできることが重要だと、10年の実験生活の中で実感している。

写真は二番穴から鍋を外したところ。二番穴の鍋底にも炎が当たる。これが大事。炎が届かないと二番穴でお湯を沸かすことは出来ない。二つの鍋穴の距離。バッフルの形。炉や煙道の素材。炉の大きさ。火袋の大きさと形。煙道の通り方。これまでの実験の成果が全て生きている。

参考:前回のオクドの実験結果

オクド壱号。薪の炎🔥で調理する器具を作る。版築で作ったオクドを1年使ってみて

少ない薪で効率良く

私は少ない薪で、効率良く調理や暖房をすることにこだわっている。

珪藻土レンガで作ったこのオクドは、調理してる人は暖かくない。これが大事。夏場に調理人が暑くなるオクドじゃ苦痛だし、要らない暖房をしては薪が勿体ない。

この記事の最初のオクドの写真を見ると、焚き口の狭いのが分かると思う。燃焼室も同じように狭く作った。細い木を丁度良く、くべて、小さな空間に炎を閉じ込めることで、鍋底に必要な量の熱が集中するようにしてる。

もっと大きな炉にして、太い薪をドッカンどっかん燃やせば楽だという発想もあるが、少しの細い薪でサッと料理できて、サッと消せる方が薪を節約できる。

また、燃焼効率と熱効率の両方が高い点でバランスをとるところを見極めることに意味がある。調理装置は断熱が大事。暖房装置は蓄熱が大事。この二つは両立が難しい。

暖房用ストーブで一日中火を焚いているのなら、そこで調理もしたら薪が節約できる。けど、ペチカは蓄熱のために必要な量だけ薪を焚いたら、後は一日中放熱し続けるということが出来るので、調理のためだけに別途火を熾すのは、無駄な薪を使ってしまう。

調理も暖房も同時にできる燃焼装置って良さそうと思ってた。でも、実験を重ねてきて、調理と暖房それぞれに特化した性能のよいものを別々に使った方が、薪を節約できることが多いと分かった。

禿げ山を作りたくない

それから、禿げ山を作りたくない。昔近畿地方で大都市近郊の花崗岩質の山々が、燃料の為に木を取りすぎ、禿げ山になったという歴史がある。

そんなのは繰り返したくないから、木が蓄えてくれたエネルギーを目的のため「だけ」に「使い切り」たい。

そのための工夫が、この記事のようなオクドや、ペチカのような熱効率の良い燃焼装置。それから断熱と蓄熱に優れた土の家(コブ、日干し煉瓦)を作ること。薪は工夫して、余すところ無く使いたいから、最小限の量で適正な調理や暖房ができる装置にこだわっている。

里山管理

木資源の豊富な国に住んでいるし、貴重な化石燃料を使うのは勿体ないので、我が家ではガスや灯油を使わずに、薪を使っている。

しかし、薪での暮らしを実際にやってみると分かるのだけど、調理、風呂、暖房、パンやビスケット作りなど、すごく沢山の薪が要る。

その薪を用意する為の伐採、運搬、玉切りに、化石燃料(ガソリン)を使っている。これを減らしたい。熱エネルギーを作るために、別の熱エネルギーを消耗することは「できるだけ」避けたい。

そのための工夫の一つは、適正な里山管理。私も歳を取るにつれて木の伐採や運搬が大変になると分かっているから、小径木の、伐採も運搬も玉切りもし易い若い二次林を育て続けている。

また広葉樹の若い木は二酸化炭素を沢山吸収するので、薪にして火を燃やしても、大気中の二酸化炭素が増えない。カーボンオフセットとかいう自然の仕組み。逆に、樹齢うん十年になると二酸化炭素を吸収するより放出する方が多くなっちゃうので、木を大きく育ててから燃やすのは、大気中の二酸化炭素を増やすことになる。

勉強の仕方

火の術をどこで勉強しましたか?お師匠さんは誰ですか?と聞かれることがある。

教わってきた人は、実家の父ちゃん、近所の職人さん、珪藻土煉瓦の社長の鍵主さん、自然農と山暮らしの先輩の石黒さん、石積みの家の根岸さん。もっと他にも沢山の方に。

最近は本もよく読む。ガスや石油がブームになる直前に日本で出版されたDIY本が、絶版ばっかりだけど、すごい為になる。暖房のペチカはロシア語のオンライン書籍や研究サイト。身の回りの自然素材でコブハウスやアースオーブンを作るのはアメリカで出版された本で勉強してる。

何より身に付くと感じるのは、そうして得た知識を実際に実験して、壊して、また実験して、調べて、また、の繰り返しの蓄積。こういうの無駄にはならないな、と思う。

参考

見学にいらした方とのQ&A

Q. 最小限の薪の量で、火力を出したい。ロケットストーブ形式でもカマドとして使えるのか。

A. ロケットストーブをカマドとして3年ほど使ったけど、カマドには向かないと思った。

「完全燃焼」 と 「調理効率が良い」 は違う。

参考:薪直火の火力についての考察(熱交換率)

http://kobapan.com/blog/2017/03/01/irori.html

ロケットストーブは薪を完全燃焼させることが出来き、炉内では1000℃を超えている箇所がある。しかし、鍋を置く地点の温度は400℃ぐらい。

多少不完全燃焼で煙が出ても、1次燃焼の600℃くらいの炎が直接鍋に当たる方が、調理効率は良い。調理効率が良いというのは、例えばお湯が早く沸くということ。また薪の使用量が少ないということでもある。

Q. 未焼成の珪藻土の粉末とセメントを混ぜたら、耐久性や保温、蓄熱性などの点でどうなるか。

A. 分からないけど、良くないと予想

まず保温と蓄熱は真逆の機能。なので、1つの素材で両立させることは出来ない。

焼成した珪藻土は保温の機能を持つが、未焼成の場合は私には分からない。珪藻土コンロの工場へ見学に行って質問したら教えてくれるかもしれない。私の予想では、焼いてない珪藻土は水分を含んでいるという時点で保温性がない。水分の蒸発が大量の熱を奪うからだ。では乾燥させれば保温性がよくなるのかというと、おそらく強度が全く足らない。珪藻土の焼成について聞いたことを一応書くと、土を粉砕して水で練って乾燥させたものは、焼成すると体積が半分程度になる。体積が半分になるまで焼き締めて始めて強度が出るはず。

またセメントは熱に強くないので、炎が直接当たる場所に使うと耐久性はない。配合比や温度・湿度などのレシピに従えばある程度強くはなるけど、レシピには珪藻土粉なんてないから、自分で実験するしかない。

金額が高いけど熱に強い耐火セメントもある。焼いた珪藻土粉を耐火セメントで固めるというのは、有りかもしれない。しかし、耐火セメントもレシピ通りに作らないと強度が出ないので、やはり自分で実験するしかない。

実験の際は、壊れるということを念頭に置いておくこと。

Q. カマドだけでは勿体ないのでオーブン機能も持たせたいがどういう構造が良いですか。

A. まず考えて欲しいのは、カマドとオーブンのどちらの使用頻度が高いのか。効率が良いのは、常に同時に使うという場合。

ハイブリッドな仕組みは調理効率(熱交換率)を犠牲にする場合が多い。犠牲になるっていうのは、例えばカマドしか使わないときでもオーブンに熱が奪われるので、その分薪を沢山燃やさないといけないってこと。

片方の犠牲にならない仕組みとして思い付くのは、①カマドの廃熱を利用するオーブンと、②ダンパーを使ってオーブン経由と煙突直結とで煙道を切り替えること。

①の場合もしかし、単体のオーブンに比べるとオーブンの温度が上がりにくいという欠点がある。オーブンを高温にしたかったら、カマド側をもっと高い温度にしないといけないからね。使ってないカマド側で、ずっと薪を燃やすことになるかもしれない。だから、同時に使うならいいよね。ただし、煙突の引きは悪くなる。その分煙突を高くするとか、太い二重煙突にしないといけない。またカマドの性能が落ちないような、煙道とオーブンの配置を考えないといけない。

それと、オーブンは下火と天火の両方がいるけど、この仕組みだと下火が弱くなるのはしょうがない。暖房用のストーブにオーブンを併設する場合は、薪を燃やす部屋の天井がオーブンの床を兼ねるので下火を作りやすいけど、カマドの場合は薪を燃やす部屋の天井に鍋を置かないといけないからね。

炎は直接鍋に当たらないと火力が弱い。だから②のダンパーの場合も①と同じようにオクドの廃熱をオーブンに利用することになる。オクドしか使わないときに煙突に直結すれば煙突の引きが良くなる。煙突の引きが良くなれば、少ない薪で調理ができる。また夏場は、使ってないときにオーブンが熱くならないのが良い。複雑になるけどね。

私はっていうと、長年実験してきて、なるべく単純な仕組みが製作・調理効率・掃除・修理の点で良いという結論だったりする。

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